若者よ、挫折力を鍛えよ/冨山和彦(経営共創基盤CEO)
Voice 1月11日(火)12時16分配信
本年度の新卒の就職状況は、統計史上、最悪の水準だそうだ。いまのところ企業業績、とくに大企業の業績は極端には悪化していない。にもかかわらず、大企業側の求人指標はきわめて悪く、むしろ中小企業のほうが採用に積極的。他方、新卒の若者は大企業、なかでも「寄らば大樹」の優良企業をめざす。私も大学生と高校生の子をもつ親である。また、産業再生機構のCOOの時代から、日本の企業社会の構造問題をもっとも間近でみてきた。この就職問題から浮かび上がってくるのは、世の通説、いや風説とはまったく異なる、「いまどきの若者」の姿だ。
世の中では、「いまどきの日本の若者は草食系だ」「内向きだ」という大人たちの声がかまびすしい。ある人は「就職が厳しいなら、中小企業へ行けばいいじゃないか」という。逆に「海外に雇用をもっていく大企業はけしからん」「それもこれも市場原理、競争原理を進めた小泉、竹中のせいだ」と、お定まりの大企業批判や、5年も前の政府のせいにする人もいる。
しかし、よく考えてみてほしい。ここ数年、労働市場規制は明らかに強化の方向。資本市場では大々的な外資バッシングをやり、反ビジネス型の政策を推し進めた結果、いまや日本に対する海外からの産業投資など、頼んでも誰もやってこない。貿易自由化でさえ、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の議論をみればわかるように、世界からどんどん取り残されている。
「開かれた競争はいやだ」「外国からのお金も人材も嫌いだ」と、むしろ鎖国の殻に閉じこもり、つかの間のムラの平和の延命に必死になっているのは、こういった政策転換を支持してきた「上の世代」のほうだ。日本は立派な民主主義の国。しかも人口構成は逆ピラミッドで、かつ投票率は「上の世代」のほうが高いから、当然、政策の方向性は、私自身も含めた中高年世代や高齢世代の影響を強く受ける。
政治的多数派である「上の世代」は、大半の富を抱え込み、社会保障制度も逃げ切り世代だ。数の少ない若年層から搾取する構造に陥っている年金や、医療における世代間賦課方式を本気で変える気配はない。後期高齢者医療制度のように、世代間賦課方式から少しでも転換しようという政策は、あっという間に叩き潰す。政府税調の議論では、所得再分配も、現在「金持ち」である「上の世代」の資産を再分配するのではなく、現役で高所得の人の収入を再分配するという。若い世代が頑張って高給取りになる道を強制的に塞ぎながら、自分たちが貯め込んだ富には指一本触れさせない構図だ。こうした閉塞を打ち破ろうと「勤皇開国モード」で頑張る若手に対しては、やれ「売国奴」「ハゲタカの手先」とバッシングにまわる。
かかる状況で、新卒就職という、正社員への唯一の入り口を閉ざされた若い世代が、できるだけ代謝を減らし(≒草食化)、「平家、海軍、国際派」のレッテルを貼られないようにする(≒内向き化)のは、当然の適応現象だ。
大人たちが繰り出す彌縫策が、本音では大人たちの既得権を守ることを大前提にしていることを、若者はよく知っている。どこかの元国営航空会社がその典型。明らかに後輩から搾取する構造になっている企業年金を改革しようとすると、受給者の少なからずが、「再生の将来ビジョンがみえないあいだは応じられない」「まだまだ削れる無駄があるはずだ。それが先だろう」と騒ぎ出す。どこかで聞いたようなセリフと同じ。本来、違う次元の問題、あるいは因果関係が逆の問題を、自分たちの既得権の延命のためにすり替えているにすぎない。
いまや若い世代にとって、一度もぐりこめれば終身雇用、年功制、豊かな企業年金が既得権として保障される豊かな会社(≒ムラ)の数は限られ、今後、さらに減少することも明白。これは一国の政策とか規制でどうなる問題ではなく、世界の動向や人口構成といった、もっと根底的な社会の構造問題だということを、当事者であり、すぐ上の「ロストジェネレーション」の先輩の苦労を間近でみている彼らは、大人よりもよく理解している。
逆に、そのムラ、いわばシェルターから一度、放り出されたら、日本の社会は冷たい。ぎりぎり、そのシェルターのなかで逃げ切れる既得権者比率の高い「上の世代」が、そこに本気で手を付ける気がないことも、彼らはよく知っている。だから、絶対安全そうなシェルターへの就職人気は極端に高くなるが、それ以外は、どこへ行っても同じと判断しているのだ。これはまったく正しい。幸い、デフレの進行で、草を食んで静かに生きること自体はやりやすくなっている。
ということは、「いまどきの若者たち」は、じつはしたたかで、与えられた環境にしっかり順応して、混沌の時代を生き抜く準備を本能的にやっているのだ。実際、女性に多いパターンだが、世界のフィールドで一人で生き抜く力を鍛えるために、単独で海外に飛び出す若者も増えている。そこまでの闘争力、狩猟能力がなさそうだという大多数の若者は、デフレの国内に残り、草食的な冬眠モードで生き残りをめざす。それぞれに大したものだ。
私や私より上の世代は、そのうちいなくなるか、力を急速に失っていく。偏狭な攘夷論にすがりついている連中は、あと10年もすればどんどん消えていくのだ。本当に日本全体が危機になったとき、いい時代を生きてきた「上の世代」、典型的には団塊世代から私の世代くらいまでは、意外と役に立たないはずだ。幕末の直参旗本八万騎と大差ない。
だいたい、「いまどきの若者は」の類いは、ヤキが回ってくると言い出すフレーズ。エジプトの遺跡にも同じ言葉が刻まれているそうだ。無名時代の勝海舟も、坂本龍馬も、そして若き平清盛や織田信長も、当時の大人からみれば、生活態度も根性もなっていない、思わず顔をしかめるような「いまの若いやつ」である。慌てることはない、若者よ。この不遇と閉塞のなかで、せいぜい苦しみ、失敗し、逼塞して、心と体を鍛えておけ。早晩、君たちの時代はやってくる。そのときに、そうやって培った「挫折力」が必ず生きるはずだ。
世の中では、「いまどきの日本の若者は草食系だ」「内向きだ」という大人たちの声がかまびすしい。ある人は「就職が厳しいなら、中小企業へ行けばいいじゃないか」という。逆に「海外に雇用をもっていく大企業はけしからん」「それもこれも市場原理、競争原理を進めた小泉、竹中のせいだ」と、お定まりの大企業批判や、5年も前の政府のせいにする人もいる。
しかし、よく考えてみてほしい。ここ数年、労働市場規制は明らかに強化の方向。資本市場では大々的な外資バッシングをやり、反ビジネス型の政策を推し進めた結果、いまや日本に対する海外からの産業投資など、頼んでも誰もやってこない。貿易自由化でさえ、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の議論をみればわかるように、世界からどんどん取り残されている。
「開かれた競争はいやだ」「外国からのお金も人材も嫌いだ」と、むしろ鎖国の殻に閉じこもり、つかの間のムラの平和の延命に必死になっているのは、こういった政策転換を支持してきた「上の世代」のほうだ。日本は立派な民主主義の国。しかも人口構成は逆ピラミッドで、かつ投票率は「上の世代」のほうが高いから、当然、政策の方向性は、私自身も含めた中高年世代や高齢世代の影響を強く受ける。
政治的多数派である「上の世代」は、大半の富を抱え込み、社会保障制度も逃げ切り世代だ。数の少ない若年層から搾取する構造に陥っている年金や、医療における世代間賦課方式を本気で変える気配はない。後期高齢者医療制度のように、世代間賦課方式から少しでも転換しようという政策は、あっという間に叩き潰す。政府税調の議論では、所得再分配も、現在「金持ち」である「上の世代」の資産を再分配するのではなく、現役で高所得の人の収入を再分配するという。若い世代が頑張って高給取りになる道を強制的に塞ぎながら、自分たちが貯め込んだ富には指一本触れさせない構図だ。こうした閉塞を打ち破ろうと「勤皇開国モード」で頑張る若手に対しては、やれ「売国奴」「ハゲタカの手先」とバッシングにまわる。
かかる状況で、新卒就職という、正社員への唯一の入り口を閉ざされた若い世代が、できるだけ代謝を減らし(≒草食化)、「平家、海軍、国際派」のレッテルを貼られないようにする(≒内向き化)のは、当然の適応現象だ。
大人たちが繰り出す彌縫策が、本音では大人たちの既得権を守ることを大前提にしていることを、若者はよく知っている。どこかの元国営航空会社がその典型。明らかに後輩から搾取する構造になっている企業年金を改革しようとすると、受給者の少なからずが、「再生の将来ビジョンがみえないあいだは応じられない」「まだまだ削れる無駄があるはずだ。それが先だろう」と騒ぎ出す。どこかで聞いたようなセリフと同じ。本来、違う次元の問題、あるいは因果関係が逆の問題を、自分たちの既得権の延命のためにすり替えているにすぎない。
いまや若い世代にとって、一度もぐりこめれば終身雇用、年功制、豊かな企業年金が既得権として保障される豊かな会社(≒ムラ)の数は限られ、今後、さらに減少することも明白。これは一国の政策とか規制でどうなる問題ではなく、世界の動向や人口構成といった、もっと根底的な社会の構造問題だということを、当事者であり、すぐ上の「ロストジェネレーション」の先輩の苦労を間近でみている彼らは、大人よりもよく理解している。
逆に、そのムラ、いわばシェルターから一度、放り出されたら、日本の社会は冷たい。ぎりぎり、そのシェルターのなかで逃げ切れる既得権者比率の高い「上の世代」が、そこに本気で手を付ける気がないことも、彼らはよく知っている。だから、絶対安全そうなシェルターへの就職人気は極端に高くなるが、それ以外は、どこへ行っても同じと判断しているのだ。これはまったく正しい。幸い、デフレの進行で、草を食んで静かに生きること自体はやりやすくなっている。
ということは、「いまどきの若者たち」は、じつはしたたかで、与えられた環境にしっかり順応して、混沌の時代を生き抜く準備を本能的にやっているのだ。実際、女性に多いパターンだが、世界のフィールドで一人で生き抜く力を鍛えるために、単独で海外に飛び出す若者も増えている。そこまでの闘争力、狩猟能力がなさそうだという大多数の若者は、デフレの国内に残り、草食的な冬眠モードで生き残りをめざす。それぞれに大したものだ。
私や私より上の世代は、そのうちいなくなるか、力を急速に失っていく。偏狭な攘夷論にすがりついている連中は、あと10年もすればどんどん消えていくのだ。本当に日本全体が危機になったとき、いい時代を生きてきた「上の世代」、典型的には団塊世代から私の世代くらいまでは、意外と役に立たないはずだ。幕末の直参旗本八万騎と大差ない。
だいたい、「いまどきの若者は」の類いは、ヤキが回ってくると言い出すフレーズ。エジプトの遺跡にも同じ言葉が刻まれているそうだ。無名時代の勝海舟も、坂本龍馬も、そして若き平清盛や織田信長も、当時の大人からみれば、生活態度も根性もなっていない、思わず顔をしかめるような「いまの若いやつ」である。慌てることはない、若者よ。この不遇と閉塞のなかで、せいぜい苦しみ、失敗し、逼塞して、心と体を鍛えておけ。早晩、君たちの時代はやってくる。そのときに、そうやって培った「挫折力」が必ず生きるはずだ。
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冨山和彦さんのこの国を作り変えようを読んだとき、頭の中でもやもや考えていることを明確にまとめてくれた感触があった。統計上当たり前のことが既得権益を減らしたくない人が手放さない。国が成長するための行動でないのは明らか。冨山和彦さんのような人がもっと国を引っ張ってほしい。権力がない以上、20代がこの10年で主役になることは絶対にない。
今は、世界中で競争し合っている最前線で最大の力を出して勝負していきたい。
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